ソフトウェア開発において、要求事項定義はシステムが提供すべきサービスと制約条件を明確にするための基本工程である。
機能要求と非機能要求、さらにユーザー要求とシステム要求に分類され、それぞれ異なる視点から開発内容を整理する。要求事項の収集、分析、文書化、確認というプロセスは、確実な開発計画と成果物の品質を保証する上で不可欠である。
要求事項の定義と分類
要求事項とは、ソフトウェアが解決すべき課題や提供すべきサービスに関する説明、およびその運用における条件を示すものである。
ソフトウェア開発や保守の過程で基準や根拠を提供する役割を果たし、関係者間の認識共有や意思疎通にも寄与する。
要求事項は一般的に、以下のように分類される。
機能要求：
システムがどのような機能を持つか
入力、出力、保存、演算処理に関する内容
必ず実装すべき機能や、ユーザーが求める具体的機能
非機能要求：
ハードウェアやネットワークなど構成に関する内容
処理速度、容量、可用性などの性能指標
他システムやインタフェース、セキュリティ、品質保証
テスト方法、プロジェクト管理・支援の方法、法律的制限など
ユーザー要求：
ユーザー視点での期待事項
わかりやすく、親しみやすい表現が求められる
システム要求：
開発者視点での詳細仕様
専門的・技術的な用語で記述される
開発プロセスと要求工学
要求事項の開発は、要求工学（リクワイアメントエンジニアリング）の一環として行われ、明確な手順に従って進められる。
本プロセスに入る前には、ビジネス的妥当性や予算の適正性を判断するためのフィージビリティスタディ（実現可能性調査）が必要である。
要求事項の開発プロセス：
要求事項の導出（Elicitation）
要求事項の分析（Analysis）
要求事項の文書化（Specification）
要求事項の確認（Validation）
このプロセスにより、要求が適切に整理・記録され、関係者全体の合意を得ることが可能になる。
各段階は相互に関連し、継続的な見直しと改善が求められる。
導出と分析の実践手法
要求事項の導出は、最初のステップとして非常に重要である。
関係者との意見交換を通じて、ソフトウェアが解決すべき問題の本質を把握し、必要な機能や制約を洗い出す。
この段階で関係者との信頼関係が構築され、プロジェクト全体の方向性が決まる。
主な導出手法：
インタビュー
アンケート
ブレインストーミング
ワークショップ
プロトタイピング
ユースケース記述
導出された要求は次に分析段階へと移行し、不明瞭な点や重複、矛盾を洗い出し、適切に整理される。
また、開発対象のスコープを明確にし、外部システムや環境とのインタラクションも検討される。
ここで設定された内容は、最終的な設計やテスト計画の土台となる。
要求事項定義は、ソフトウェア開発における成功の鍵を握る重要な工程であり、正確で具体的な仕様がプロジェクト全体の品質と進行を大きく左右する。
機能・非機能の要素を明確に分類し、導出から確認までの一貫したプロセスを経ることで、開発後のトラブルを未然に防ぐことができる。
次のステップとしては、定義された要求を基に詳細設計へと進み、開発とテスト工程にスムーズに移行する体制を整えることが求められる。